こんにちは。西尾悠太です。
今回はインドにおけるハンセン病について解説します。
高校2年の夏に私がインドを訪れて目にしたものは、ハンセン病に対する社会の無知や偏見によって、理不尽に弱い立場に立たされた人々の姿でした。
- そもそもハンセン病とは何か
- インドにおけるハンセン病の現状
- ハンセン病差別の是正のために「教育」にできること
それぞれ分かりやすく説明していきます!
ハンセン病とは何か
ハンセン病は感染症の一種で、感覚神経が麻痺したり、皮膚に斑点や腫瘍ができたりといった症状が現れるのが特徴です。
ハンセン病は世界で最も感染力の低い感染症の一つと言われています。
また感染したとしても、現在の医療技術においては、早期の段階で治療を行えば、ほぼ100%完治する病気です。
しかし、治療を受けることが遅れた場合には、皮膚の変形が後遺症として一生残ることになります。
この外見的後遺症こそが、ハンセン病差別の大きな要因となってきました。
インドにおけるハンセン病の現状
WHOのデータによると、2017年時点でのインドでのハンセン病患者は135485人(全世界のハンセン病患者の約2/3)です。
また、ハンセン病元患者を含めると、インド国内に1300万人以上いると推定されています。
この数字は、少なくともインドの全人口の100人に1人がハンセン病を経験したことがあることを示しています。
また、街中でもハンセン病患者や元患者が、変形した自分の皮膚をさらけ出して物乞いを行う姿がしばしば見られます。
インドの人々にとって、ハンセン病は非常に身近な病気なのです。
WHOは2005年に、インドにおけるハンセン病の撲滅宣言(感染者が全人口の1/10000以下にまで抑えられたことの証明)を発表しました。
「撲滅」は、「根絶」と異なり、完全に感染者が0になったという意味ではありません。
しかし、撲滅宣言をきっかけにインド政府は、ハンセン病に関する医療支出や、海外からの支援を大幅に減らしてしまいました。
インドのハンセン病差別の歴史と原因
ハンセン病はその外見的後遺症により、世界中で差別の対象となってきました。
インドにおいては、ヒンドゥー教の教えとも密接に絡まり合い、歴史的・文化的に根深い差別が形成されてきました。
紀元前1500年頃に書かれた、ヒンドゥー教徒の行動規範であったマヌ法典には、ハンセン病の人に近づいてはならないと明記されています(マヌ法典は現在では、差別を助長するとして禁書扱いされている場合が多いです)。
イギリスによる植民地時代には、家族の誰かがハンセン病を患った場合、その家族はハンセン病になった人の自殺を手助けすることが強く(ほぼ義務的に)奨励されていました。
このように、ハンセン病は歴史的に非常に長い間差別の対象とされてきました。
インドにおけるハンセン病差別には、大きく分けて次の二つの側面があります。
・医学的側面
・宗教的側面
医学的側面
19世紀後半に病原菌が発見されるまで、ハンセン病は原因不明の不治の病でした。
現在では医学の進歩により、ハンセン病の感染力は非常に弱いこと、早期に治療を受ければ、後遺症も残らず、ほぼ100%完治することが判明しています。
しかし現在のインドでは、この科学的事実があまり浸透しておらず、「ハンセン病の人や家族に近づくとハンセン病がうつる」といった、人々の「無知」故の差別が残っているのです。
宗教的側面
ヒンドゥー教には、輪廻転生という教えがあります。
簡潔に言えば「人は死んでもまた新しく生まれ変わる」という意味です。
輪廻転生には、「何に生まれ変わるかは、前世での行い(業)によって決まる」という概念があります。
そしてこの概念は、ハンセン病差別と密接に関わっています。
「ハンセン病患者たちは前世で盗みや殺人、神への冒涜などの悪事行ったために、現世であのような醜い姿に生まれ変わったのだ」
「だからハンセン病を患って差別の対象となるのは全て自己責任だ」
各々の信仰心の強弱にもよりますが、現代のインド社会においても多くの人が、少なからずこのような思想を抱いているのです。
私がインドで見たハンセン病
ここからは私の経験談を書いていきます。
私は高校2年の夏に、インド北東部のジャールカンド州にあるハンセン病療養施設を訪ねました。
そこには、ハンセン病患者や元患者、患者の家族の方が住むコロニー、診療所、学校などの設備がありました。
このハンセン病療養施設には40年近い歴史があり、その間の運営費は、全て海外からの寄付金によって賄われてきました。
しかし2005年のハンセン病撲滅宣言以降、海外のハンセン病関連の支援機関が次々と撤退していったことにより、現在は、私が通っていた高校からの寄付金が、運営費の6割以上を占めています。
私はここで、一つの忘れられない出会いをしました。
12歳のハンセン病の少女との出会いです。
彼女は6歳の頃にハンセン病を発症しました。
しかし5年もの間病気を放置しており、11歳になってようやくハンセン病であると診断され、治療を受け始めました。
治療がここまで遅れたことの理由には
- 彼女や彼女の周りの人達が、ハンセン病の症状に関する知識がなかった
- 彼女の親が、自分の娘がハンセン病であると気付いていながらも、家族全体が地域社会から差別されることを恐れ、彼女のハンセン病を隠していた
ことが挙げられます。
ハンセン病は、早い段階で治療を行えば後遺症もほとんど残らずに完治させることが可能な病気です。
しかし、病状が悪化するまで治療を受けなかった場合、外見的後遺症が一生残り、それによって社会的な差別や偏見の対象となってしまいます。
若干11歳で、ハンセン病という重荷を背負わされることになった彼女が何を思うのか、当時の私には想像することができませんでした。
「自分の目の前に世界の不条理の被害者がいる」
「しかし今の自分には、彼女を弱い立場に追いやっている社会のシステムを是正する程の力はないし、彼女の苦悩に寄り添うことさえもできない」
この悔しさそが、私が国際協力の道を志すことを決意したきっかけとなりました。
インドのハンセン病差別是正における「教育」の役割
私が訪問したハンセン病療養施設の職員の方が仰っていた言葉が忘れられません。
「医学が進歩した現在、ハンセン病の身体的な病状自体はもはや問題ではありません。患者や元患者、患者の家族達が社会から分断されることこそが、ハンセン病の最も重い症状なのです。そしてその症状を治すためには、教育の力が必要です。」
インド社会におけるハンセン病差別の是正のためには、教育が重要な役割を果たします。
では具体的に、どのように貢献することができるのでしょうか。
教育がこの問題の解消に貢献するためには、主に次の二つのアプローチが挙げられます。
・社会全体への教育
・ハンセン病差別の対象者への教育
社会全体への教育
ハンセン病は感染力の高い病気ではなく、患者や元患者、その家族達は穢れた存在などではないという認識を、学校をはじめとした様々な場で子ども達に伝える必要があります。
また、教師や親のもつ差別意識が、教育を通して子ども達に伝播してしまわないようにしなければなりません。
教育は人の思想の根底を形成する営みです。
そして一人ひとりの思想は、社会全体の価値観を規定します。
社会の無知や偏見を再生産する場ではなく、差別や偏見のない社会のスタートラインとなることこそが、教育の役割なのです。
ハンセン病差別の対象者への教育
自身や家族がハンセン病である子ども達は、社会の差別や偏見のために、通常の学校に通うことが難しい場合が多いのが現状です。
彼らに教育の機会を提供することは、自らの手で負の連鎖を断ち切ることのできる人材を育成することに繋がるでしょう。
子どもだけでなく、ハンセン病によって社会から長い間虐げられてきた大人達に、教育の機会を提供することも大切です。
識字教育や職業教育生涯学習などの機会を提供することで、自己肯定感・自己有用感が向上し、自分から社会に目を向け、積極的に社会と関わる姿勢を身に付けてもらうことが大切です。
- 社会のマジョリティ側に、ハンセン病に対する無知や偏見を是正するための教育を行うこと
- 差別の対象となっている側を、教育によってエンパワーメントすること
この両方が、ハンセン病患者や元患者、患者の家族達が、真の意味で社会の一員となるためには必要なのです。
最後に
この記事では、私自身の経験を元に、インドにおけるハンセン病差別の現状について解説しました。
あなたがこの記事から、何か少しでも新しい学びを得て下さったのであれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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