教育分野での国際協力に関心のある方の多くが耳にしたことがあるであろう「国際教育開発」という言葉。
国際教育開発とは、(主に)途上国の教育問題と、それを解決するための国際協力について探究する分野です。
この記事では、国際教育開発という分野の基礎的な部分を、大学で教育学・国際協力を学ぶ大学生がわかりやすく解説していきます!
国際教育開発に関心があるけど、言葉が抽象的でよく分からない…
国際協力×教育に関心があるから、国際教育開発について知りたい!
このような疑問を解決します!
国際教育開発が目指すもの
国際教育開発が目指すもの、それは公正・公平な世界です。
2015年に採択されたSDGsでは、「持続可能性」がキーワードとなりました。
「持続可能性」の意義は、単に次世代に資源を残したり、地球環境を守ったりすることに留まりません。
公正・公平な社会を次の世代に受け継ぐことも、SDGsの重要な目標の一つです。
次の世代に公正・公平な社会を受け継ぐためには、今の世代において公正・公平な社会を実現することは、必須条件です。
SDGsにおける教育に関する目標でも、全ての人に平等に質の高い教育を提供することが到達点に掲げられています。
「全ての人が平等に質の高い教育を受けることで、誰もが主体となり、次の世代に受け継ぐ社会を創ることのできる世界」
このような世界を実現するために、国際教育開発では、質の高い教育の普及が遅れている地域の教育問題、およびその地域に対する国際教育協力について探究しているのです。
国際教育開発の3つの側面
「国際教育開発」という言葉には、大きく分けて以下の3つの側面があります。
- 開発のための教育 “Education for Development”
- 教育の開発 ”Educational Development”
- 教育と開発 ”Education and Development”
これら3つの側面は、時に対立し、時に組み合わさりながら、「国際教育開発」という概念を形成しています。
開発のための教育 “Education for Development”
開発のための土台として、教育を捉える考え方です。
「開発の視点から教育を見つめる」概念と言い換えることもできるでしょう。
国の経済成長に貢献する人材を育成したり、民主主義社会実現のための思想を浸透させたりする場として、教育を用います。
教育の開発 “Educational Development“
教育そのものの意義に着目し、教育の普及や、質の向上を目的とする考え方です。
「開発のための教育」とは対照的に、「教育の視点から開発を見つめる」概念であると言えるでしょう。
この考え方の根底には
「教育は、経済や社会を開発するための手段である以前に、基本的人権である」
「全ての人の権利を保障するために、教育を開発する必要がある」
という思想が強く流れています。
教育と開発 “Education and Development“
「教育」と「開発」の相関を客観的に捉える考え方です。
「教育は本当に、対象地域の経済や社会の発展に貢献するのだろうか」
といったように、必ずしも教育と開発の間に正の相関、もしくは関連性そのものがあるとは限らないという前提に立っていることが特徴です。
客観的な立場から教育と開発の双方を考えるという点で、「教育と開発」は、一方の視点からもう一方を見つめる概念であった「開発のための教育」と「教育の開発」とは、視点の異なる概念であると言えるでしょう。
国際教育開発を考える視点
国際教育開発は様々な学問領域と密接に関わる分野です。
教育学、社会学、経済学、文化人類学、政治学、歴史学、発達心理学…
それらの中でも、国際教育開発を考える軸となることが多い分野は、次の3つです。
- 教育学
- 社会学
- 経済学
教育学的視点
この視点では、国際教育開発における「教育の在り方」を考えます。
西洋の国々では、これまでに様々な教育の在り方が考え出されてきました。
しかし、それらの教育方法や思想を、そのまま教育協力の対象地域(多くの場合は途上国)の教育政策に当てはめることは、あまり得策だとは言えません。
教育協力の現場には、独自の教育観や文化、政治・歴史・経済的背景があるからです。
国際教育開発の「教育学的視点」では、西洋で生まれた教育方法や思想と、対象地域独自の文脈の両方を考慮しつつ、より多くの人が、より質の高い教育を受けられるようになるためにはどうすれば良いのかについて考えていきます。
社会学的視点
この視点では、「べき論」ではなく、教育が国際教育開発の対象地域の社会の中でどのような役割を担うのかについて考えます。
社会に対する教育の役割は、「再生産」「変革」の二つに分けることができます。
社会に対する教育の役割:「再生産」
以下は、教育によって再生産される可能性のあるものの例です。
- 親の社会階層
- 社会全体の価値観
- 先進国と同じ発展段階
「再生産」という役割をもった教育は、「社会が教育をつくる」というスタンスであると言えます。
「元々社会にあったシステムや価値観を、次の世代にそのまま引き継ぐ」
このような教育は、たしかに効率的かつ安定しているかもしれません。
しかし、マジョリティとマイノリティの社会的立場を、何世代にもわたり固定してしまうといったように、社会における既存の課題点の解決を行うことが難しくなるというデメリットを持ち合わせています。
社会に対する教育の役割:「変革」
「変革」という役割をもった教育は、「教育が社会をつくる」というスタンスであると言えます。
教育を通して、一人ひとりに社会における自分の立場・役割を見つけさせることで、社会の既存の価値観や思想に染まらず、現在の社会問題の解決、次世代の社会の構築に貢献する人材を育てることが目的です。
経済学的視点
この視点は、人を国の「資本」、人に対する教育を「投資」と捉える考え方です。
「国の発展のためには、『誰に』『どれほどの期間』『どのような』教育を行うのが、最も合理的なのか」を考える視点と言い換えることもできるでしょう。
教育を経済的な側面から捉える考え方は、しばしば次のように、批判の対象とされてきました(特に「教育の開発 “Educational Development”」の側面から)。
「人を資本というモノのように扱っていいのか」
「教育は、『投資』といった表面的なものではなく、全ての人の権利であるから必要なのだ」
しかし、「学習環境」や「教師の給与」などの具体的な指標を用いて教育を分析することのできるこの視点は、世界銀行をはじめとした多くの国際教育開発研究、実践の場で、大きな実績を出してきているのです。
最後に
この記事では、国際教育開発の概要についてざっくりと解説してきました。
この記事があなたの国際教育開発に関する学びのスタートラインになってくだされば、それほど嬉しいことはありません。
具体的に途上国の教育問題、国際教育開発の取り組みの例が知りたい方は
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